不当利得と税法 1 不当利得(民法703条) ・不当利得とは、ある者(受益者)が法律上正当な理由がないにもかかわらず、他人(損失者)の財産または労務から利得を受け、これによって他人に損失を及ぼした場合に、その得られた利得のこと。 ・損失者は不当利得返還請求権を取得する。 ・受益者は損失の限度でその利益を返還する義務を負う。 ・不当利得の成立要件   @他人の財産または労務によって利益を受けること   A他人に損失を与えること   B受益と損失の間に因果関係があること   C法律上の原因がないこと 2 不当利得に対する課税 (1)不当利得に対する課税 ・収入金額とすべき金額または総収入金額に算入すべき金額は、その収入の起因となった行為が適法であるかどうかを問わない。(所得税法基本通達36-1) ・「所得税法は、個人の所得という経済的現象に着眼して制定されたものと解すべきであるから、収入源泉の合法、違法は問題でなく、個人の所得は適法行為によると、はたまた犯罪その他違法行為によるとを問わず、すべて課税の対象となるものと解する。」(昭和29.11.8大阪高裁 税資27号1頁) ・「租税は、国民の資力(担税力)に応じて国家財政上必要な経費を国民に分担せしめることを目的とするものであり、所得に課税する各税法は、所得をもって納税義務者の担税力を測定し得べき経済事実と見てこれを課税物件にしているものであるから、いやしくも所得を構成するものである以上、課税の見地からは、それが不法原因に基づくものであるか否かは直接の関係をもつものではなく、従って特に法律で除外を規定しない限り、不法原因に基づく所得であっても、そのために当然に課税の対象となることを失うものではないと解すべきである」(昭和27.10.11長野地裁) (2)不当利得の収益としての計上時期   利息制限法による制限超過の未収の利息・損害金に対する課税の許否(最高裁昭和46.11.9判時649号11頁)   既収の制限超過利息と未収の制限超過利息を区分し、前者は課税所得を構成し、後者は構成しない。 3 課税庁の不当利得とその返還  (1)過誤納金は不当利得となるのか 過誤納金の分類 @最初から法律上の原因を欠いているもの A課税の基礎となった確定処分が変更され、後発的に法律上の原因を欠くことになったもの 課税要件が成立しなければ4要件を満たすので不当利得であると考えられる。公法関係においてそれなりに不当利得返還の規定を設けている場合、さらに民法上の規定が適用できるのか。    (2)申告にかかる場合 過誤納があった場合、民法上の不当利得が認められるのと同様な趣旨にたってその返還が認められるべきであるが、租税に関しては特別に規定が設けられていることから、民法の規定の適用がない。 「国税として納付された金員について、それに対応する確定した租税債務が存在しない場合には、国はこれを収納すべき法律上の原因を欠くのであるから、公法上の不当利得の性質を有するものとして、これを納税者に返還すべきであって、国税通則法にいう過誤納金とはかかる場合に生ずる国の返還金をいう」 「国税通則法56条の過誤納金の還付は不当利得の返還金は租税法律主義に基づいて発生する点を除けば私法の不当利得返還と異ならない」(東京地S49.7.1訟月20巻11号178頁) *過誤納の消滅時効5年、民法の不当利得の消滅時効10年   (3)更正処分との関連  更正・決定処分等が違法であることを理由に不当利得の返還請求が可能か。 従来、行政処分の公定力により、処分の効力が否定されないため、不当利得が成立しなとの考え方が支配的。 課税処分が違法であっても無効でない以上不当利得といえない。  「それが当然に無効(その瑕疵が重大かつ明白である場合)である場合を除いて権限ある行政機関または裁判所等によって正規の手続きで取り消されるまでは一応有効なものとして取り扱われ、なんびともこれを否定し得ない」(昭和57.4.15 税資123号44頁)  これに対して、処分の違法性が確定しないにもかかわらず、納税者の不当利得を認めた 最高裁判決がある。 「貸倒れの発生とその税額が格別の認定判断を待つまでもなく客観的に明白で、課税庁に判断権を留保する合理的必要性が認められないような場合にまで、納税者が先の課税処分に基づく租税の収納を甘受しなければならないとすることは、著しく不当。すでに徴収したものは、法律上の原因を書く利得としてこれを納税者に返還すべきものとするのが相当」(昭和49.3.8最高裁 民集28巻2号186頁) (4)賦課方式  @固定資産税が誤って課税されていたケース   現況と異なる課税処分を行った場合   重大明白な瑕疵があるとして不当利得返還請求が認められた例 A登録免許税の過大納付 4、納税者間の不当利得返還請求 (1)固定資産税の真の所有者に対する不当利得返還請求  課税台帳に記載されている者が真実の所有者でなく、固定資産税を納付した場合、真実の所有者に対し、不当利得返還請求ができるか。 「これにより同税の課税を免れたことになり、所有者として登記または登録されている者に対する関係においては、右納付税額に相当する利得を得たものというべきである」   (最判47.1.25 判時659号53頁)  (2)未経過固定資産税の問題  (3)相続税の不当利得返還請求   ・他の共同相続人がした相続税の納付と不当利得の成否    原審「原告は自らの意思によりあえて過誤納税を行ったものであるからその事実上の効果により、他人に利益を与える結果となったとしても・・不当利得返還請求を成しえないとの見解も成り立ちえる」    東京高裁「@原告が納付しなければ被告が納付しなければならなかった。A被告は申告すべき義務があることを知りながらこれを履行していないB原告の損失により同額の利益を得たものとすべきである」として不当利得返還請求を認めた。 (東京高判H5・12・22判タ842号170頁)   ・遺留分減殺請求訴訟が確定したことによる不当利得返還請求    「被告の遺留分減殺請求権の行使により、本件遺言により一旦原告が取得したとされた財産の一部が被告の帰属となり、その結果、原告がすでに納付した税額の一部が過払いとなったことが損失なのであり、税法上、還付請求しうる期限が経過したとしても、この損失によって、被告が利益を得ており、被告のその利得について法律上の原因がなければ、被告は原告に対し、その結果を不当利得として返還すべき義務を負うというべきである」(平成13.3.28 横浜地裁)